WEB広告の空中戦と地域密着で集客を確保する
1.展示場集客の低迷はしばらく続くのか?
2023年の持家着工戸数を振り返ると、6~8月の3ヶ月以外は月間2万戸を下回るという低空飛行で推移し、1~12月の年計では前年比▲11.4%の22.4万戸で着地しました。その要因の一つとして考えられるのは、物価高による生活コストの圧迫と、資材価格高騰による住宅価格の上昇によって、住宅の購入に積極的に動く消費者が減ったということでしょう。着工及び受注が減っている以前に、住宅購入検討者の動きが鈍っていると考えられ、見込み客を商談のレールに乗せる第一歩である集客に苦戦している住宅会社は少なくない。
住宅展示場協議会の調査によると、23年の総展来場者数は前年比▲2.7%の315.4万組。コロナ禍からの反動増で回復した21年から2年連続で減少しており、コロナ禍より前の19年と比較すると▲23.4%の減少です。住展協が来場者数を集計している総展の会場数やモデルハウスの棟数そのものが減少してはいるが、来場者組数の減少はそれを上回るペースです。
総展に限らず、各社の単展やショールーム、見学会、相談会等、リアルな接点での新規名簿獲得数は減少傾向にあると見られています。その対策として各社がすでに行っている施策は、第一にWEB戦略の強化。WEBでの情報発信やコミュニケーションにより、より自社への関心が高い見込み客の予約来場を促進することで、商談数は減っても成約率を高めて受注が目減りしないようにする。第二に展示場・イベント以外の集客ルートの開拓。主には紹介の促進で、自社オーナーはもちろん、法人ルートやSUUMOカウンターのような仲介サービスを介して新規名簿を獲得する。
WEB戦略や紹介によって集客の質を高め、無駄な商談が減れば、社員の労働環境が改善され、経費の削減にもつながるかもしれません。展示場やモデルハウスで直接対面する前に、ほぼ自社に決めてもらっている状態を作れれば、生産性は高まる。一方で、営業スキルの向上という観点から見れば、新規客との商談機会は多いに越したことはない。研修やロープレでもある程度のスキル向上は見込めるが、実戦から学べることに勝るものは無い。特に経験の浅い新人ほど、より多くの打席に立つことが重要で、同席する先輩のトークや失注からも学べることがあるでしょう。
商談中の会話から、住宅購入検討者のトレンドや競合他社の情報を掴めることもあります。また、展示場やショールームの商談スペースが埋まっていることは、人気がある住宅会社であることの裏付けとなり、購入意欲を高めることにもつながるはずです。
2.認知、ファン化、反響で媒体を選びメディアミックスで広告効果を高める
持家着工戸数がこれだけ減っているということは、受注棟数・引き渡し棟数が減り売り上げを減らしている住宅会社が少なくないということです。また、資材価格の高騰や人手不足によって住宅の工事原価は高まっているため、利益を確保することも難しくなっています。住宅事業以外の収益源を持っていない住宅会社の23年度決算は、減収減益が多発する可能性があります。利益を確保するためのコストダウンの一環として広告宣伝費を削ってしまえば、集客が減り、受注が減り、結果として売上・利益が減るという悪循環に陥りかねません。集客が減っている時こそ、広告宣伝に経営資源を先行投資することも考えるべきでしょう。
住宅会社の広告予算のかけ方は、以前と比べるとWEBに比重が置かれるようになってきています。反響に直結しやすいWEB広告としては、イベントやキャンペーンのランディングページ及び来場予約フォームに直接誘導する、リスティング広告やディスプレイ広告、SNS広告が主流となっており、反響単価を検証しながら必要十分な広告宣伝費を投じたい。反響からの来場率、来場からの成約率を高めるためには、WEBであらかじめファン化しておくことも重要です。消費者に身近な媒体であるyou tubeやInstagram等のSNSの活用はファン化促進策として定番化しています。
特に、最近ではInstagramのストーリーズやリール動画、TikTok等のショート動画の活用も増えています。認知拡大だけではなく、DMやコメント欄でのコミュニケーションによりファン化を促進できます。
ただし、youtubeやSNSは全国・全世界へ向けて発信する媒体であり、閲覧者やフォローワーがすべて自社の見込み客となるわけではありません。再エネの活用や災害対策等、社会的に意義の高い情報を広く拡散するための媒体と割り切って、反響を取るよりも自社のブランディングに比重をおいて活用するという考え方もあります。
より反響を重視するのであれば、テレビCMやチラシ等の旧来型のマス広告とWEB広告とを組み合わせたメディアミックスを意識したいところです。特にテレビCMの出稿料が安いローカルエリアでは有効で、大型のイベントやキャンペーンを企画したら、まずは予告CMをテレビで流し、並行して打つSNS広告やディスプレイ広告、ポスティングチラシからランディングページに誘導する。チラシはデザインやキャッチコピーを複数用意し、それぞれ異なるQRコードを付けることで、どのチラシの反響が良かったのか効果測定もできます。
認知度向上を図るには、路線バスのラッピング広告や電車の車内つり革広告、映画館へのシネアド出稿等も検討して良いでしょう。地域密着型ビルダーの場合、インターネットという大海のみに広告宣伝費を投じるのではなく、より地域生活者に認知されやすい媒体は何かということも意識した広告戦略が重要です。
※株式会社住宅産業研究所「TACT」参照